2022年10月には児童手当法が改正され、「所得制限」のルールが変更されます。
夫婦いずれかの年収(世帯所得ではない)が一定額を超えると、児童手当が減額もしくはもらえなくなります。
所得制限は、児童手当がもらえなくなる、だけではなく、さまざまな国からの支援等の対象にならないという大きな問題をはらんでいます。
児童手当と所得制限について
まずは、児童手当のそもそもの制度と所得制限について、わかりやすくまとめます。
児童手当とは
児童手当は、0歳から15歳に達した後、最初の3月31日まで(主に中学校卒業まで)の子どもを養育している方に支給される制度です。
支給額は3歳未満は月額15,000円、3歳以上中学生までは月額10,000円の支給になります。
第3子以降は、3歳~小学校終了前までも、15,000円と多子世帯を優遇した設定になっています。
支給対象児童 | 1人あたり月額 |
---|---|
0歳~3歳未満 | 15,000円(一律) |
3歳~小学校修了前 | 10,000円 (第3子以降は15,000円※) |
中学生 | 10,000円(一律) |
児童手当は申請のあった月の翌月分から支給されます。4月生まれの子どもの場合は、5月分からの支給になります。出生届けと同時に、児童手当の申請を忘れずにして下さい。
月をまたぐ申請の場合、出生日の次の日から数えて15日以内であれば、申請をした月分から支給されます。
通常は役所に出生届け提出時に、児童手当の申請も求められますが、万が一届けが出せない場合などは、早めに役所の窓口に相談をしましょう。
児童手当の支給総額は、最大198万円。支給は年3回 10月・2月・6月
0~3歳未満 15,000円(月額)×36か月(3年)=54万円
3歳~中学生 10,000円×144か月(12年)=144万円
合計で198万円になります。
出生の翌月分からの支給になりますので、生まれ月によって変動がありますので、ご注意下さい。
また、児童手当の支給月は、「6月・10月・2月」と、年に3回あります。
6月の支給月には2~5月分、10月の支給月には6~9月分、2月の支給月に10〜1月分と4ヵ月分の手当が支給されます。
子ども1人の場合、3歳未満ならば、6万円。3歳以降中学生までは4万円が支給されます。
支給日は、自治体により異なりますので、お住いの自治体までお問合せ下さい。
通常10日に支給となる自治体が多いようです。
児童手当における所得制限について
この児童手当ですが、すべての子どもが等しく一律に給付されるものではありません。
養育者の所得が一定額を超えてしまうと、児童手当は減額もしくは消滅します。
扶養親族等の数 | 所得制限限度額 | 所得上限限度額 | ||
---|---|---|---|---|
所得制限限度額 (万円) |
収入額の目安 (万円) |
所得上限限度額 (万円) |
収入額の目安 (万円) |
|
0人 (前年末に児童が生まれていない場合 等) |
622 | 833.3 | 858 | 1071 |
1人 (児童1人の場合 等) |
660 | 875.6 | 896 | 1124 |
2人 (児童1人 + 年収103万円以下の配偶者の場合 等) |
698 | 917.8 | 934 | 1162 |
3人 (児童2人 + 年収103万円以下の配偶者の場合 等) |
736 | 960 | 972 | 1200 |
4人 (児童3人 + 年収103万円以下の配偶者の場合 等) |
774 | 1002 | 1010 | 1238 |
5人 (児童4人 + 年収103万円以下の配偶者の場合 等) |
812 | 1040 | 1048 | 1276 |
所得制限限度額を超える所得がある場合、児童手当は5,000円の特例給付になります。
所得上限限度額を超える所得がある場合は、児童手当は給付されません。
ここでの注意点は収入制限ではなく、所得制限である、ということです。
収入 - 各種控除 = 所得 の計算式になります。
児童手当の所得制限について、大雑把な言い方をすると、サラリーマンと専業主婦 子ども2人の家庭の場合、年収960万円を超えると、5,000円に減額。
年収1,200万円を超えると、もらえない、という認識で大枠間違いはありません。
※これは控除などの具合によって個人差がありますので、ボーダーにいる方はよく確認をして下さい。場合によっては、控除や税務申告の仕方などで、所得制限にかからずに済む場合もありますので、お金の専門家である フィナンシャルプランナー(FP)や税理士などの専門家に相談することをオススメします。
所得制限の問題点について
所得制限の問題点についてはいくつか論じられてますが、主な議論を下記にまとめます。
なぜ、所得制限が世帯年収ではないのか
所得制限は世帯(夫婦合算の所得)ではなく、どちらか一方の所得が高いほうの所得が基準になります。
ですから、同じ世帯年収 1,200万円でも、
〇 夫 1,200万円 妻0円 →所得制限
× 夫600万円 妻600万円 →所得制限対象外
となります。
子育ては夫婦らの世帯で行い、その世帯に対する支援のはずが、所得の判定はどちらか一方という点について、さまざまな議論があります。
ボーダーの所得の人たちについては、所得が増えると児童手当が減る/なくなるといった逆進性
年収が1,200万円であれば、児童手当はなし。年収が1,199万円であれば、5,000円は給付。
年収が960万円であれば、児童手当は5,000円。年収が959万円であれば、15,000円あるいは10,000円は給付。
このように、所得で線引きをしたことによって、そのボーダーラインを少しだけ超えた人が損をする、収入を上げただけ損をする、という逆進性が発生しています。
同じようなボーダー上の逆進性の問題は、社保の扶養などの控除でも発生していて、いわゆる103万円と130万円の壁などとも呼ばれています。
いずれも働くと損をしてしまう、という制度設計は見直す必要があるという意見が多数です。
一部の世帯を弾くという事務コストが発生する
児童手当が給付される15年間、当然ながら、給与は一定ではありません。
所得制限の年収を超える年もあれば、それ以下になる年もある、といったように、毎年この所得制限にかかるか、の認定を行うなどの事務コストが発生します。
限りある国や自治体の予算削減策として、所得制限を行い、給付額を抑えたとしても、それ以上に事務コストが発生するならば、そもそも意味がないし、本質的ではありません。
そもそも児童手当に対して、所得制限は必要なのか?
児童手当の制度は、子どもに対する支援であるはずですから、親の収入によって、もらえる/もらえないという線引きが発生すること自体が、制度にそぐわないのではないか、という意見もあります。
所得制限の対象となっている世帯は、子育て世帯の10%程度と言われていますから、90%の世帯は支援ができている、ととらえるか、すべての世帯に等しく、と考えるべきか、議論の余地があります。
児童手当だけじゃない。所得制限によって、「制限」されるお金一覧
「所得制限って、月15,000円 / 10,000円の児童手当がなくなるだけでしょ。
所得が高く、稼いでいるお金持ちなのだから、それくらいは自分で稼げばいい。」
このような意見を持つ人たちも数多くいると思いますが、残念ながらこれは誤りです。
所得制限で制限されてしまうものは、児童手当だけではなく、本当に多岐にわたっています。
子ども医療費助成
乳幼児等・こども医療費助成制度、小児医療費助成制度など、呼び名は自治体により異なりますが、いわゆる子どもの医療費助成について、です。
そもそも日本の皆保険制度において、0~6歳までの未就学児は2割負担で、7歳以上は3割負担となっています。これは全国一律の制度ですが、子育て支援として、全国の自治体が、独自に制度を設けることで、子どもに対する自己負担分を助成しています。
ですので、自治体ごとに支援の制度が異なるので、支援が手厚い自治体もあれば、薄い自治体もある、というのが現状です。
たとえば、東京23区の場合、中学生までは子ども医療費助成によって医療費の自己負担が0円、無償化されており、2023年度からは高校生までその対象が広がります。また、その助成については、所得制限はなく、すべての子どもが対象になっています。
一部の自治体では、この医療費助成に対しても、所得制限がかかり、0~6歳までの未就学児は2割負担。小学生以上であれば、大人と同じく3割負担を強いている自治体もあります。
子どもが思わぬ怪我や病気をしたときに、どれだけの医療費がかかるのか、経済的な不安が頭をよぎると思います。その不安を拭うための制度であるのに、所得制限によって、線引きをされてしまい、また自治体ごとに制度が異なることも、論議を呼んでいます。
ただ、近年では、この子どもの医療費助成に対する所得制限への不満が高まり、所得制限を撤廃する自治体も出てきました。(横浜市、川崎市など)
所得に応じた保育料負担の違い 最大110万円の負担増
3歳児以上は幼児教育・保育の無償化されていますので、保育料はかかりません。
0~2歳児の保育料は自治体ごとに異なり、その保育料は所得(納税額)に応じたものとなっています。
保育料については、所得制限のような線引きがあるわけではありませんが、同じ保育サービスを受けているにも関わらずに、保育料が異なるという点について、所得制限対象世帯を中心に不満の声があるのも確かです。
たとえば、江東区の場合、生活保護・区民税非課税世帯の場合、保育料は0円ですが、最高額の保育料は91,500円/月額 になります。
高校無償化支援制度
高等学校に通う高校生を育てる世帯に対して、国からの就学支援(就学支援金)があります。
その就学支援金によって、公立・私立を問わずに、ほとんどの高校学校に、無償で通うことができる制度が整っていますが、この就学支援金にも所得制限があります。
年収590万円未満世帯は年間39万6,000円を上限に支援金が支給。
年収590万円~910万円未満世帯の場合は、年間11万8800円を上限となります。
本来であれば、高校無償化支援制度によって、公立・私立を問わずに、自分が進学したい高校を選択できるはずが、所得制限の対象になり、学費の支援が受けられないことで、私立高校への進学をあきらめざるを得ない子どもを産む可能性があります。
日本学生支援機構の奨学金の所得制限
大学生の多くが利用している日本学生支援機構の奨学金にも所得制限があります。
予約採用(高校時に申請)の場合、申込みの年収制限は無利子の第一種奨学金が747万円、有利子の第二種奨学金が1100万円となっています。※給与所得の場合の目安
また、返済不要の給付奨学金は、約380万円未満の世帯が対象となり、所得制限世帯は当然ながら申し込みをすることができません。
障害児福祉手当・特別児童扶養手当
重度障害児に対して給付される障害児福祉手当や、精神又は身体に障害を有する児童に対して給付される特別児童扶養手当など、障害児に対する支援にも、所得制限が存在します。
受給資格者(障害児の父母等)もしくはその配偶者又は生計を同じくする扶養義務者(同居する父母等の民法に定める者)の所得が一定以上である場合、所得制限によって、手当が給付されません。
参考:障害児福祉手当について
参考:特別児童扶養手当について
子育て世帯等臨時特別支援事業(子育て世代 10万円給付)
2021年11月26日に決定された令和3年度子育て世帯等臨時特別支援事業についても、所得制限が付いた形で実施され、物議を呼びました。
新型コロナウイルス感染症が長期化しその影響が様々な人々に及ぶ中、子育て世帯については、我が国の子供たちを力強く支援し、その未来を拓く観点から、児童を養育している者の年収が960万円以上の世帯を除き、0歳から高校3年生までの子供たち(注2)に1人当たり10万円相当の給付を行う。
子どもの未来のために、子ども1人当たり10万円の給付のはずが、960万円の所得制限がつき、所得制限の家庭の子どもの未来はどうなってもいいのか、と物議をかもしています。
各子ども支援策が叫ばれていますが、このような所得制限によって、子育て世代の間に大きな分断を生んでいることは問題です。
「所得制限撤廃法案」 所得制限撤廃の議論は進むか!?
2022年10月3日に国民民主党が「こどもに関する公的給付の所得制限の撤廃等に係る施策の推進に関する法律案」(所得制限撤廃法案)を参議院に提出しました。
本法案の目的として
こどもがひとしく健やかに成長することのできる社会の実現に寄与するため、こどもに関する公的給付の所得による支給の制限の撤廃、こどもに関する公的給付の拡充その他のこどもに関する公的給付の見直し(以下「こどもに関する公的給付の所得制限の撤廃等」という。)に係る施策について、基本理念、国の責務その他の必要な事項を定めることにより、これを集中的かつ計画的に推進することを目的とすること。
として、所得制限の撤廃を目指し、各メディアでも議論が高まってきています。
今後の法案の行方から目が離せません。
出所:【法案提出】「所得制限撤廃法案」を参議院に提出:国民民主党